これまでのS.O.S.

水上:SUPER OPEN STUDIO(以下S.O.S.)は2013年から開催しています。

吉岡:2013年、私は多摩美術大学の油画科の学生で、当時、非常勤講師だった青山悟さんが「『アートラボはしもと』というところで公開制作をする」と聞き、それを観に行ったのがS.O.S.との最初の関わり。スタジオはまわらなかったかな……ちょっと記憶が曖昧だけど。

水上:10年前ですもんね。

吉岡:アートラボの一番大きい展示室で千葉正也さん(LUCKY HAPPY STUDIO)が公開制作をしていた。

水上:写真で見たことがある。

吉岡:千葉さんはいろいろな環境をつくって、それを絵に描いたりしていて、そこに青山さんも加わっていた。アーティストの地主麻衣子さんたちと一緒に映像を撮ったり、パフォーマンスをしたり。

水上:いろんなアーティストが関わって実験的な試みをしていた感じですよね。

吉岡:そうそう。演劇団体「けのび」が会期中に公開制作の会場でパフォーマンスをしていて、それも観に行った。2013年はアートラボだけ観て、他のスタジオはまわっていないような気がする。まわっていたとしても1、2軒かな。でも、あの年が最初の年とは知らなかった。私はてっきり、もっとずっとやっているものかと思っていた。だから始まりの年に行ったという印象はないな。

水上:(当時のリーフレットや毎年スタジオやイベントを紹介している『MAPBOOK』を見ながら)なんか原点という感じで、みんな公開制作していますね。

吉岡:エネルギーがあって、なんか楽しかった気がする。

水上:私が初めて観たのは2014年ですね。

吉岡:水上も大学2年生の時とか?

水上:そうです。多摩美の油画科の2年生の時に車を借りて、みんなでまわった気がします。2013年に千葉さんが公開制作をしていたアートラボの展示室で、2014年はスタジオ「二DEC」が巨大な作品を制作していて、それを観て「うわ〜すごいな〜」って。その時はまだ「SPECIAL FEELING STUDIO」がなかったから「LUCKY HAPPY STUDIO」からスタートして、橋本の方に下っていくかたちで回りましたね。

吉岡:「TANA Studio」とかも行ってるんじゃない?

水上:そうですね。あと「REV」にも行ったな。

吉岡:そこら辺のスタジオって多摩美生だと、先輩みたいな人がいたり、結構知っている人がいるもんね。

水上:あと、当時S.O.S.に参加していた福永大介さんの個人スタジオに「めちゃくちゃ遠いじゃん」って言いながら(笑)

吉岡:(笑)あったあった、私も行ったわ。

水上:懐かしいですね。

吉岡:私、意外と毎年まわってるな。でもどの年にどこをまわったかは記憶がごっちゃになっている。

水上:この2014年のラインナップを見ると、今あるスタジオもあれば、入れ替わりもありますね。「美大生の理想の家プロジェクト」とか。

吉岡:「プーススタジオ」とか、結構入れ替わっている。

水上:知秋さんが「pimp studio」に所属したのは?

吉岡:2016年の3月に多摩美を卒業して、そのまますぐにpimpに入った。だから2016年からいるのか。たまたま自分の家からも通えるし、彫刻をやっている人がいっぱいいて、その頃、私も石彫とかに興味があってつくっていたから彫刻ができる人のいるスタジオがいいなと思って探したら、たまたま空いていた。pimpは学生の時には行ったことがなくて、入ったらS.O.S.の『MAPBOOK』とかが置いてあって「あ、参加しているんだ」と後から知ったんだよね。それで2016年からS.O.S.に参加者側として関わるようになった。でもpimpがどんな感じで参加しているのかはよく分からなかったから、2016年はメンバーの動きに身を任せて、とりあえず参加してみるみたいな。なんか自分の制作場所をきれいにして、ちょっと展示っぽくしてみたり。

水上:pimpって例年クロッキー会をやっていましたよね。

吉岡:2016〜2017年にやっていたね。pimpにボディービルダーが友達の人がいて、マッチョの身体が勉強になるということで、半分遊び、半分真面目みたいな感じで「じゃあボディービルダーを呼んで、クロッキーしてみようよ」みたいな。

水上:マッチョのモデルさんってそんなに描く機会ないですもんね(笑)

吉岡:(笑)まあそうだね。面白かったよ。

水上:懐かしいな。

吉岡:水上は私の1コ下の学年だから、2017年の3月に多摩美を卒業するじゃん?

水上:しましたね。でも、1年くらいスタジオが見つからなかったんですよ。すごいいろんなところを探して。

吉岡:S.O.S.でも探した?

水上:いや、当時4人くらいで借りようって話をしていたんですけど、そのメンバーが全員離れたところに住んでいたので、それぞれの中間地点である川崎周辺で最初は探して、内見も数件回ったんですけど、家賃とか、駅からの近さとか、トイレがないとかいろんな問題があるじゃないですか。結局、橋本周辺が安いし、条件に合った物件があって戻ってきました。2018年から「RED IRON STUDIO」として参加していますね。

吉岡:もともとあったスタジオに入ったのではなく、RED IRONを新しく立ち上げて参加したもんね。

水上:そうですね。

吉岡:それもたまたまだね。たまたま橋本でいい物件があって借りることになったから、「じゃあS.O.S.も参加できるじゃん」みたいな。

水上:そうなんですよ。ちなみに、RED IRONってもともと別のアーティストスタジオだったんです。多摩美の同級生たちが借りていたんですが、その子たちが退去するってなって、私たちが入れ替わりで借りました。S.O.S.にはRED IRONのメンバーの長尾郁明さんが「井出賢嗣さん(TANA Studio)に言っておくよ」となって、「お願いします」みたいな感じで加入しました。長尾さんがS.O.S.の人たちと仲よかったから。

水上:私は2019年から運営チームに入りました。

吉岡:私は2020年から。

水上:知秋さん、もう3年目なんですね。時が経つの早いですね。

吉岡:何気に。

水上:2019年は普通にスタジオを一斉にオープンして開催できたんですよ、コロナ前だったから。ただ開催初日に大型台風と重なって、すごく大変だった覚えがあります。2019年は知秋さんと福永さんと私で「SOMETHINKS」に参加しましたよね。私は運営として関わっていましたが、SOMETHINKSは応募した人がほぼ全員展示できるという「アンデパンダン方式」の展覧会で、キュレーションを運営側がしないというのを引き続き踏襲しました。

吉岡:私が展示をやりたいって水上と話す機会があって。アートラボの会議の時とかに喫煙所でしゃべりながら、「いいですね」「誰か呼ぶ?」「福永さんとかどうですか?」「いいじゃん」みたいに、ふわっと決まった。

水上:SOMETHINKSはすごく実験的なことをできるイメージでしたね。やりたいことを直接、スピーディーにやれる場所として機能していて。それで「SOMETHINKSでやりましょうか」ってすぐに決まりました。SOMETHINKSという名前もいいですよね。名が体を表しているというか。SOMETHINKSの「キュレーションをしない」という考えは運営チームの根底にあるというか、コントロールし過ぎないというか、土台を支えて、後は底抜けだけしないようにして、ご自由にどうぞっていつもやっていますね。

吉岡:確かに。最初の2013年から何年かは私たちは観るだけだったし、遊びに行かせてもらう立場だったから、内情はよく分からないけど、最初からそういう感じだったのかな?

水上:どうなんですかね。外から見た印象となかから見た印象って全然違うじゃないですか。私は外から見た時は……なんだろう……S.O.S.というまとまりで見るというよりかは、各スタジオをまわって各スタジオの雰囲気を楽しむみたいな感じで観ていたので、SOMETHINKSは観ていなかったかな? 忘れちゃったんですけど。どこを切り取るかによってS.O.S.の見え方って全く違っていくのかなって。

吉岡:ラボだけ観た人とスタジオをめっちゃまわった人では違うよね。でも、根底には「運営がまとめない」という考えが流れているってさっき水上が言っていたのは、本当にそうだなと思う。2013年にS.O.S.を立ち上げた初代の運営チームがいるじゃん。私たちは2代目じゃん、まあざっくり分けちゃえば。2代目って言っても、最初から関わってくれている人もいるし、はっきりと分けてはいないけど。それで初代の人たちがS.O.S.を始めた当時の経緯や思いを、『S.O.S. BOOK』のインタビューとかで読むと本当にみんな言っていることがバラバラなの。

水上:確かに、そうですね。

吉岡:それが面白いなと思うんだけど、みんなこのイベントが「自分の思った通りになってない」「自分はこう思っていた。でもなんとかさんはこう思っている」っていうことを言っている感じがあるわけ。今になってインタビューを読むと「ああ、そういう気持ちで始めたんだ」とか「そう思いながら運営をしていたんだ」っていうのを知れて面白い。みんな違うんだけどそれをよしとしてふんわりと進んでいる感じが、すごいS.O.S.っぽいというか。むしろそれが長生きの秘訣になっているのかな、と。

水上:100人以上のアーティストが所属しているし、スタジオごとにメディアもジャンルも違うから。

吉岡:方向性も違う。

水上:奇跡的に分裂することなく続けてきましたね。

吉岡:アーティストが何人かで借りているスタジオで、スタジオとしての機能だけじゃなく、イベントとかいろんなことをやっていこうとなった時、ここまで続くものってない気がして。「あ、いいじゃん、いい感じじゃん、かっこいいことやってるな」と思う団体でも、3年とかでもめて辞めちゃったりとか、結構ありがち。私が知らないだけで、もちろん長く続いているものもあるかもしれない。でも、S.O.S.はみんな思っていることは違うんだけど、それをやんわりさせて続けている。

水上:S.O.S.は2013年当初から長いスパンで考えていますよね。『MAPBOOK』も毎年、キーカラーがグラデーションになっていて、10年かけてオレンジから紫になってきているんですけど、10年でオレンジ・赤・紫の3色。「完遂するのに何年かかるの?」みたいな。

吉岡:長いスパンで考えているふしは確かにあるよね。

水上:オレンジの刻み方とか、私はまだ運営に関わっていない頃ですけど。

吉岡:すっごい微妙なグラデーション。みんな目的が違うところを向いていたとか、そういうことってS.O.S.の成り立ちでそうせざるを得なかったみたいなところがあると思うわけ。別にみんな、S.O.S.があるから、スタジオをこの地域に設けたというわけではなく、それぞれの事情で橋本とか八王子にスタジオがあって、みんなそこで生活しながら制作していて。もともといたわけじゃん。それで「せっかくならオープンスタジオを一斉にやってみようよ」みたいなことじゃない。だから、立ち上げメンバーの井出さんが「S.O.S.って『自治会』だよね」とか、千葉さんも「回覧板」みたいなことを言っていることに、確かにって思った。そんな感じで、S.O.S.のためにもめるとか嫌なわけじゃん。だって住んでいるし、これからも住むし、だから近所ともめたくないって感じな気がする。自治会でわざわざご近所関係を悪くしたくないじゃん(笑)。だから「S.O.S.を開催するために集まる」というのとは違うんだよね。「何かイベントをやるためにここに来ました」とか「みんなでここでスタジオを借りて大きな面白いことをやろうよ」とかとは違うというか。もともとみんな地域に根差しているというか。

水上:それぞれの考えとかモチベーションがあって、たまたまここにいるっていう。その集合体。

吉岡:たまたま隣に別のアーティストがいて「じゃあ、一緒に何かやろうよ」みたいな。だから、みんな違うところを向きつつもそれをやんわりまとめていけるのかな。

水上:ほかの人や、ほかのスタジオのことに干渉しない。ご近所さんに「洗濯物の干し方おかしくないですか」みたいなことを言わないというか。

吉岡:まあちょっとは小言を言うかもしれないけど直接は言わないじゃん、そんなわざわざ。うちの家に迷惑掛かんない限りそんなもめ事になるのは嫌なわけで。結果的に「こういうイベントをやりたいからこうしていこうよ」みたいな、強引な人がいなかったというか。

水上:そうですね。レールがないというか……なんて言うんですかね。

吉岡:そう、そういう感じ。それってなんかちょっと一見ふわっとしていて「面白いのかよ」という感じもするけど、でもS.O.S.の根底に流れているのはそういう雰囲気。多分2013年からずっとそういう雰囲気が流れていて、今もそういう感じがあって。そういう感じがありつつ、でもやるなら来た人に楽しんでもらいたいからイベントをやったり、誰か作家を呼んで展示をしてもらったり、企画をしたりとかそういうことを毎年やっている。年ごとの色はあるけど、あくまでもそこに住む人たちのつながり。そういうゆるい感じがあるのが、結局内部に入って分かったかな、私は。

水上:日本全国で見て、これだけスタジオが密集している地域はあるんですかね?

吉岡:どうなんだろう。「ないんじゃないか」みたいなことはS.O.S.のなかで言うけど、どうなんでしょう。

水上:京都の方でも同じようなオープンスタジオがあったりするんですけど、関東の中でこれだけ集まっているし、それらが一斉にオープンするという緩やかな連帯をなんとなくみんな続けたいとは思ってはいる。本当になんで続いているのか分かってないけど続いている。「熊蜂」っているじゃないですか。最近まで熊蜂ってなんで飛べているのか分からなかったらしいんです。体に対して羽根が小さ過ぎるから。でもなんかそんな感じで飛んでいるイメージありますね。すごい大きな団体が小さな羽根でずっと飛んでいるような。

吉岡:かわいいね。

水上:かわいいですよね。

吉岡:確かにそうかも。分かるわかる。なんで続いているんだろう、できているんだろうっていうところはある。

S.O.S.の現在

吉岡:水上が運営に入った2019年は一応初代と2代目が一緒になった運営チームとして、ディレクターが6人いたんだよね。引き継ぎじゃないけどそれを見越した感じ?

水上:移行期みたいな感じでした。

吉岡:初代の人たちも「新しい風を取り入れたい」みたいな? それから次の年に「若い人たちのものにしていってほしい」とか、急におじいちゃんみたいなことを言い出し始めたよね(笑)。「もう後は君たちのものじゃ」「僕たちは見守るよ」みたいな。

水上:「私たちも若くないけどな」みたいな感じで入って(笑)。大変だった気がする、めちゃくちゃ。

吉岡:仕事的にやっぱ急にいろんなことをやらなくちゃいけなくなったのかな?

水上:表に出てこないいろんな業務が実はめっちゃあるっていう。

吉岡:水上は何を担当していたの?

水上:サイトの更新、『MAPBOOK』のデザイン、SOMETHINKSの調整とかでしたね。

吉岡:各作家とのやり取りとかも大変だよね。情報収集とかさ。

水上:でも広報担当は小山維子さん(REV)、鈴木飛馬さん(RED IRON STUDIO)たちと知秋さんがやってくれていて。

吉岡:そうだね。私はTwitterとか、SNSの更新をやっていた気がする。

水上:お願いしていましたね。やっぱりディレクターが6人もいたら考え方の違いとか「S.O.S.ってこうしていったらいいんじゃないか」という思いの違いもいろいろとあって。

吉岡:なるほど、それが2019年にあったんだ。私は知らなかったけど。

水上:多分あったような、なかったような……分かんない本当に記憶が……バタバタと過ぎていったから。

吉岡:2020年もやばかったから、それで記憶が薄まったのかも。2020年は私たちの世代だけで運営をやるということになって、かつコロナになっちゃって、オンライン開催。なんかやばかったよね。

水上:そうですよね。「とにかくやるしかない、あと2カ月で」って状況になって。

吉岡:本格的に引き継がれたみたいな感じになって、そうなると私たちも「じゃあ私たちならではのS.O.S.をやりたいよね」っていう気持ちになるわけじゃん。「前の世代とはちょっと違う感じ」って思いつつ、「でもコロナだ……」みたいになって、しかもどんどん夏に向かってコロナがやばくなって。その頃、いろいろなイベントとか展覧会とか、何もかもストップしていった。緊急事態宣言も出ていて。

水上:なんか「今年はもうS.O.S.を止めようか」みたいな話もあり。ただ「欠番を出さずにやってみよう」ってなったんですよね。

吉岡:だってさ、完全に2代目になった途端に止まるっていうのは、やらないっていうのは、なんか悔しいみたいな気持ちがみんなのなかにちょっとあって、でもどうすればいいか分からないっていうので、「じゃあやらない方がいいかな」とか言っていたけど、印象的なのは水上がその当時働いていた職場の誰かに「『芸術の灯を絶やすな、水上さん』と熱い言葉を言われました」と運営会議で言って、「おーっ」となって。でもそれはすごい励みだったの当時、特に。「私たちがどれだけのことをやれるか分からないけど、でもやれないというよりは何かやった方がやっぱりいい」、「ネガティブな社会のなかで何か一つポジティブなことができればいいよね」って。その時、運営の人たちの気持ちがそこで一つになった感じがあった。やれることがあるとすればというのでオンライン開催になって。いやーでもすごかったね。

水上:機材とかめちゃくちゃちゃんとしていて、アートラボの方がスイッチャーとかやってて。よくできましたよね。しかもこの年はバスツアーの代わりに「スタジオビジット・オンラインツアー」をやったんですよね。オンラインで全スタジオをリアルタイムでまわっていくっていう。

吉岡:いや、考えられないな。2020年の7月とかに誰もが想像していない展開。こんなことをまさか11月にやっているとは思わなかったよね。規模がでかい。本当にいろいろやったね。大変だったけど。すごく思い出深い、印象深い一年になったね。この時、S.O.S.の長所である、ゆるくつながり、誰かが強いディレクションをしない、「今年のS.O.S.はこうだ」っていう。別にそれだけにはしてこなかったわけだけれども、2020年からコロナということで結局統制しなきゃいけなくなった。2021年もそういう感じがちょっとあったけどね。それまでは多分、運営の仕事は「とりあえずスタジオをオープンして、そのなかでアーティストがやりたいことをやれればいい」みたいなことが一応前提としてあったと思う。でも、それができなくなったのは結構きつかったのかな。コロナ対策もそうだし、「その年のイベントはこうします」みたいな方針を決めてちゃんと出さなくちゃいけなくなったみたいな。だから自由度がちょっと違うんだよね、2020年から2021年は。

水上:2020年から2021年までは、オープンスタジオの最大の売りである20軒のスタジオが一斉にオープンすることができなかった。だから、web上のカレンダーに各スタジオが開けられる日を記載してもらって「オープンするスタジオは個別にオープンしていきましょう」というかたちにしたんですよね。運営が企画したオンラインイベントにできるだけ多くのスタジオが参加してもらって、20軒以上あるスタジオの総体として見せていったっていう。コロナのせいで、形式的な面でイレギュラーな年になりました。

吉岡:当時はコロナへの考え方すらみんな違って、「人に来てもらうのは困る」っていうスタジオもあれば、「敷地的に広いからそんなに気にしない」っていうスタジオもあって、それを統制するのは難しいってなった。気持ち的にも嫌だし。だからスタジオをオープンするとしたら、各スタジオで好きな時期に、自分たちができるなと思った時に自分たちで開けてもらう、みたいな感じにしたんだよね。結局2020年は各スタジオそんなにオープンしてなかったと思うけど。

水上:確かにそうですね。数軒くらい。

吉岡:まあしょうがないな。

水上:2022年は一斉オープンしますからね。3年ぶりの一斉オープン。2021年くらいから新しいスタジオもポツポツでき始めていて、私たちと同世代とか少し下の世代の人たちのスタジオもある。

吉岡:今年も新規参加あるよね。

水上:そうですね。来年も新規参加がある予定だし、ゆるやかに毎年動いているというか。

吉岡:今年の久しぶりのバスツアーにみんな参加してくれるかな。常連の方も来てくれるかな。

水上:来てくれるといいですね。いつもは20人定員だけど感染者対策で今年は10人定員になっているんですよね。

吉岡:やっぱりスタジオを一斉オープンすることをとにかくしたいっていう一心だよね、今年は。

水上:そうですね。やっぱり一斉にオープンすることって大事じゃないですか。2020年と2021年もよかったとは思うんですけど。

吉岡:ちょっと違うコンテンツで面白かったとは思う。

水上:でも私たち「SUPER OPEN STUDIOだぞ」みたいな。

吉岡:なんか2020年は名前を変えようかみたいな会議もあったよね。「スーパー・クローズ・スタジオ」にするかとか。とにかく今年は「SUPER OPEN STUDIO」と名乗っているのにオープンできなかったっていう、その鬱憤を晴らす年だよね。

水上:そうですね。今年の運営はね、ほぼ私と知秋さんの二人でしているんですよね。

吉岡:これってさ……まあいいか。別に秘密にする必要もないのかな。

水上:秘密にした方がいい? もっと大勢いるように見せた方が……(笑)

吉岡:(笑) なんかすごいかわいそうに見られそう、運営……多そうに見せる?

水上:「今年は10人くらいでやってますけど」って(笑)。でもアートラボはしもとの加藤慶さんもいるから。

吉岡:加藤さんはめちゃくちゃ仕事量が多いんだけど。

水上:『S.O.S. BOOK』も中尾拓哉さんと高橋ひかりさんがやってくれているから。

吉岡:一応運営として書記とかもいるわけで、5人くらいいることにはなっているのか。忘れてた。

水上:まあでもなんとなく主要なメンバーとして、アーティストからは私と知秋さんが出ているっていう。

吉岡:まあそうだね。なんかさ、軽量化みたいなことも言っていたしね、何年か前から。

水上:「持続するために軽量化した方がいいんじゃないか」「運営の負担がやばいんじゃないか」っていう話はずっとありますよね。

吉岡:そうなんだよね。ふんわり続いていたのは誰かが頑張っていたからとかそういう面もあるわけで、だからなんかこう、うまいこと運営の仕事を軽量化して持続できる方向はないだろうかみたいな。2代目の意見の総意としてもなんかそういう雰囲気があったと思う。つまり、2代目の私たちってS.O.S.がすでにあったところに参加しているから、なんか「こう変えたい」とかいうのはなくて、それよりも「毎年何かやっててほしい」みたいな気持ちが強くて、どんなかたちであれ毎年開催できる方向性に行きたいみたいなのはなんとなくあるんだよね、多分。

水上:「なくなるのはやっぱりちょっとねえ」という感じ。まあでもなんかどうなんですか、私たちも3代目に……

吉岡:もうおばあちゃんみたいな? 「これからは君たちの時代じゃ」みたいな。ちょっとそこらへんは分からないけどね。

これからのS.O.S.

吉岡:来年は10周年。どうしたいとかありますか?

水上:10周年、すごいですね、なんか盛り上げていきたい。盛り上がりたいですよね。うちのスタジオも頑張ろうかって。

吉岡:すでに何か話しているの?

水上:いや、頑張ろうかって言い合っているだけ(笑)

吉岡:私も個人的にはまだ何もないんだけど。来年、当然運営の軽量化っていうのも持続しつつ、ちょっと人手は足すと思う。とにかくなんか盛り上がったらいいなという気持ちはある。どういう感じがいいかな。何カ月か前に「各スタジオから出れる人は参加してください」って呼びかけて全体会議を開いて、10周年のことも軽くみんなに「どう?」って聞いた時に「無理してまとめるというよりは各々で頑張ろうよ」という声があったような記憶があるんだけど、どうかな。みんなの声を聞く前はやっぱり10周年だからさ……

水上:「記念展やろうか」って言ってましたよね。

吉岡:そうそう、「大きく打ち出した方がいいんじゃないか」とか、それこそ「運営が何か一つディレクションなりなんなりした方がいいんじゃないかな」とか。でもそんなことできるのかなと思っていたら、参加スタジオのみんな的には無理して盛り上げようみたいな感じじゃなくて「各々がやりたいことをやって結果的に盛り上がればいいんじゃないか」と言っていて、「あ、そうじゃん」って。その方ができる気がしたし、絵が見えたし、楽しそうだし、健全というか、いいなと。

水上:各自が気合いを入れた一年になるのかなと。

吉岡:あと、会議していて思ったことは、私が思っている以上にみんながすごいいい考えをもっていたということ。だから参加しているアーティストの皆さんも、全員が全員そうではないし、別にそうである必要もないと思うんだけど、ある程度会議に出ている人たちはコロナでのゴタゴタとか運営が代わったりとかで、みんながS.O.S.というものを考えている感じがある。「こうあった方がいいんじゃないか」とか「こういう風に運営したらいいんじゃないか」とか、みんながちょっとずつ考えていることがすごくよかったなと。

水上:確かに。みんな運営を気遣ってくれますよね。

吉岡:私たちが言い過ぎたかな。

水上:「大変です、人が足りません」って(笑)。いやでも、どんどん言っていかないと。なんか2023年に向けて、2022年にオープンスタジオの一斉開催を再開し、助走をつける意味でも……

吉岡:そうだね。それもあるよね。私のイメージでは10周年、もしくは10周年以降の目標はコロナ前のゆるさを取り戻すこと。

水上:その第一歩ですね、今年は。運営に入ってよかったと思うのは、すごくいろんな人と関わるじゃないですか。全スタジオの人の名前とか覚えるし、この100人のなかにはオープンスタジオがアートの歴史に残るように、アートの歴史っていうとちょっと言葉が強過ぎる気がするけど、アート界で盛り上がっていってほしい層もいるし、地域の、普段作品や展示を観ない人にとっても開かれたものであってほしい層もいるし、いろんな考えをもった人たちがいますよね。その人たちの考えを聞いて、それを受け入れていく。

吉岡:受け入れていく(笑)? 水上が? あ、S.O.S.として否定も肯定もしないということか。

水上:否定も肯定もせずに「並べていく」みたいな。そういうことができていけるといいなと。これから60歳とかになっても続いてたりしたら面白いなって思いますね。

吉岡:それは本当思う。それが一番面白いよね。

水上:SUPER OPEN STUDIO 50周年とかやばいですよね。

吉岡:それは千葉さんとかも言っているから。「S.O.S. NETWORKの初代代表だった井出さんがよぼよぼのおじいちゃんになって、相模原駅に降りた時に拍手で出迎えられる」、そんな話をしてた(笑)。でもそれくらい続いちゃったら面白いよね。私たちの仕事は「続けること」みたいなところがある。

水上:毎年のキーカラーのグラデーションが1周して、2周してとか、そういう感じで末永く続いていくといいですね。

吉岡:すごいよね。この間、国際芸術祭「あいち2022」に行ったら、観ようと思った常滑と有松地区の展示がちょうど休みで。展示は一つも観れなかったんだけど、でも染め物が有名な町、愛知県の有松地区は昔の日本家屋がそのまま、しかも染物屋さんとかも今もやっている。保存地区の町並みもきれいだし、国際芸術祭とか抜きにしても町自体でお祭りをやったりとか、そういうのが盛んな地区なわけ。展示は何も観ていないんだけど町を歩いているだけで楽しい。伝統的な染め物をやりつつ、それが今もお店として機能していたりとか、郵便局を挟んでまたお店みたいなことが面白くて、そういう町をまわりながら美術を楽しむみたいな。S.O.S.の10周年もなんかそういう感じがいいな。その町の雰囲気を楽しむというか、オープンスタジオってそういう面白さがあると思う。伝統工芸ではないんだけど、その町の中に突然スタジオがあるみたいな。

水上:しかも本当に外見もすごいみすぼらしくて「ここなんだ……」みたいな感じで現れるのが面白いですよね。

吉岡:工場と工場の間や工場跡地にアーティストが住み着いていたりとかするわけじゃない。ああいう感じ。町を歩きながら何かを発見するみたいな。しかもそれが制作スタジオでっていうのが結構面白いよね。唯一無二感がある気がする。いや、そんなことはないかもしれない。分かんないけど、10周年はそんな感じがいいな。規模的には結構それくらいな感じがする。

水上:今年から橋本駅や相原駅でもシェアサイクルが始まったの知ってます? 最近できたんですよ。シェアサイクルがあったら、スタジオをまわるのが本当に楽になるなと思って。

吉岡:どうなんだろう。チャリか、だるいな……私は(笑)。でも橋本駅周辺のスタジオはまわれるね。

水上:橋本駅から相原駅までにあるスタジオは自転車で30分圏内で全部行けるから、いい感じになるかも。

吉岡:あれもやってほしいね。電動キックボードの「LUUP(ループ)」。運転免許が必要だったかも。

水上:最近では、アーティストの橋本聡さんが高尾の方の山で展示をしていたりとか、東林間の方に「スペースくらげ」ができたりとか、あと町田の方にも来年スペースができたりするみたいで、スタジオのほかにも展示やシンポジウムができるスポットができてきたりしていて、連携が取れていったら楽しそうですよね。

吉岡:うん、そうだよね。

水上:私はオープンスタジオには、観に来たりとか、運営したりとか、いろんなかたちで参加してきましたが、まだオープンスタジオが何か分かっていないと感じます。「これはなんだろう、でもまあやっていくか」みたいな……。制作場所をコンスタントに一年ごとに公開して人を招き入れて、そこで会話をするっていうのは、アーティストとしても刺激になります。展覧会には、少なくともアートに興味がある人が来るわけじゃないですか。ただオープンスタジオで看板出して開いてると本当に「何やってるんですか?」みたいな人も入って来たりする。そういう人たちとしゃべる時に何を伝えるか。

吉岡:なんか共通言語がないんだよね。だから勉強になるよね。ふだん展覧会とかで話す場合は、例えば「なんで抽象画を描いているんですか」とか「なんで人物画を描いているんですか」とかは聞かれない。

水上:暗黙の了解になっていた部分に直球の質問が来る。

吉岡:それってあんまりないっていうか。アート業界、アート界隈みたいなところにいるとそうしたことはもう分かっている上で、もうちょっと何か詳しいことを知りたい、みたいになるんだけど。私も一回pimpにふらっと入って来られた方に「なんで抽象画を描いているんですか」みたいなことを聞かれて、しかも説明しようにもさ、伝わる言葉はなんだろうとか、なんて言ったら分かるんだろうとか。だから一般社会との触れ合いみたいなことは起こるよね、S.O.S.では。

水上:あと、ご近所さんとかとしゃべっていると「アーティストさんなのね」とか「なんだかすごいわ〜」みたいなことを言われたりするんですけど、全然そんなことない。普通に橋本の町で暮らしていて、水道代を払い忘れて水道が止まったり。

吉岡:生活だね。

水上:「スタジオの電気が全部点きません」とか「ゴミ出しの日をみんな守ってね」とか、そういう感じで地域のなかで一緒に生きている存在じゃないですか。

吉岡:私もほかのスタジオに遊びに行く時とかに、それが面白いというか。私が前から作品を知っている作家さんのスタジオに行くと、「この人もここで生活して制作しているんだ」みたいな。それまでは展示会場の作品しか知らないから、それこそちょっと、なんていうのかな……

水上:本人も作品も整えられた状態でしか知らないけど、スタジオに行くと「なんかコップ汚いな」とか(笑)

吉岡:本当にそういう些細なところから人は情報を読み取るというか。

水上:すごい親しみやすくなるところってあるなと思っていて。

吉岡:「毎日ここに通ってちょっとずつ作品ができているんだ……」とかさ。で、まあアーティスト同士だったらそれが励ましみたいなことになるんだろうし、遊びに来た人にとっては本当に面白いと思う、そういうところが。 ちょっと待って! 「私にとってSUPER OPEN STUDIOとは」ということを言いたいんだけど。……なんだろうね、私は何が言いたいんだ。シンキングタイム。

水上:最近『古今和歌集』の序文を読んで、「青い柳のように」「小川の水のように」みたいな文章があるんですよ。いろんな具体例が出てきて、それらのようにこの歌が末永く伝わっていきますようにって箇所がすごく素敵で。末永く続いていくものが「青い柳」とか「水の流れ」とか些細なもので表現されていて、S.O.S.もそんな感じなのかなあ。

吉岡:青い柳っていうこと?

水上:なんて言うんだろう……例えば大きなアートイベントにある「スペクタクル」みたいなものはないけれど、青い柳のように、風にそよそよそよいでいてずっとある、そんな感じがいいのではないでしょうか!?

吉岡:急に!(笑)。なんかでも、分かります。私とか水上にとってS.O.S.は「もうそこにあって、これからもあるもの」みたいな感じなんだよね。立ち上げの時にいないから、当然そこにあって、これからもあるものみたいな感覚があるよね。

水上:そうですね。なんか景色の中であの木が倒れたら悲しいみたいな。

吉岡:そういう感じ。たまたまオープンされてるみたいな感じがいい。お祭り?

水上:お祭り感はありますよね。

吉岡:自治会のお祭りって感じ。「お酒飲んじゃお」みたいな。なんか「自分たちが楽しい」、「やってる人たちが楽しい」みたいな。

水上:橋本駅周辺もリニア開業で再開発されるじゃないですか。またここら辺の雰囲気も変わるのかなとは思いつつ。でもこの町って結構、思ったより素敵、思ったよりって言っちゃうと変かな?

2022年10月16日 アートラボはしもと仮事務所